ひと夏の救い

…やっぱり!!
そうだと思ったの!
『厨二病』同様、『黒歴史』というものの存在も知ってはいたのだけれど。
確か当人がある事実を塗りつぶして消したいほどに恥ずかしい過去の事を『黒歴史』というのよね?

噂に聞いた最近の流行《トレンド》を目の当たりにして、
自分でも意味がわからないくらい興奮してしまう。

言い切った先生はおでこにかいた汗を手の甲で拭って、
じっと黙りこくった。

そして目を左右に忙しなく動かし、
所在無さげに指を合わせたり離したりしていた。

「…それ、だけなんだが」

まあ、そうよね。
『黒い本』は一体何なのか、というとその一言に尽きるんでしょうけど…

ちょっと可哀想なものを見るような目をした東雲君が、
うーん、と考える様に一度うなってから先生に尋ねた。

「あの、どうしてその本を作ったんですか?
それに、なぜ先生の私物がこの学校の図書室に」
「それは…」

もはや誰が見ても冷血教師には見えないくらい
萎縮してしまった先生が、
また気まずげに目を逸らしながら口をもごもごさせた。

言いづらいみたいね。
でも東雲君の言うことは最もで、私も気になるわ。

暫く黙っていたけれど、
それでも私たちがじっと先生の言葉を待っていると、
先生は諦めたように息をついて図書室に置かれている長テーブルの椅子に力なく座った。





< 97 / 145 >

この作品をシェア

pagetop