ひと夏の救い

いわく、先生は内気で恥ずかしがり屋で小心者で根暗…(自分のことをここまで言う?って言いたくなるくらいあらゆる言葉で卑下していたので、省略)だったため、学校ではいつも一人で過ごしていた。

「つまり、今風に言うとぼっちだったと」
「こら、そんなにはっきり言わなくても良いんだから。可哀想だろう?すみません先生、続きをどうぞ」
「…東雲も大概だと思うが、続けよう」

そして、一人でいると本を読むとか、一人で絵を描いて遊ぶとかそんな事しか出来ない。

同級生たちが教室を走り回っている様子を馬鹿にして横目に見ながら、先生は一人で棒人間を描いたりパラパラ漫画を作ったり、無駄にクオリティの高いねりけしを作ったりして暇を潰していた。

「さらっと性格悪いわね」
「こら荒峰!」
「……それでだな」

その当時流行っていた漫画に、禁書という、絶対に誰にも見られてはならない本のことが描かれていたらしく、それに影響されて興味を持ったのだとか。

さっそく意気揚々に描き始めたものの、教室で描いていると目敏いクラスメートが先生の描いたものを晒して遊ばれたりしたので、ここ図書室で描くようになったんだそう。

「この図書館で?ということは、薄々感じてましたが、やはり先生はこの学校の生徒だったんですね」
「そうだ、一応センパイだぞ、君たちの」
「どうでもいいわね、続きを教えてくださいな」
「どうでもって…大人しいと思っていたのに案外毒舌だったんだな、荒峰」

話を戻そう。書くうちに筆が乗ってきた先生は、クラスメートの名前まで使って未来の予知もどきの事を書き綴るようになっていった。

毎日書いているから、あっという間に買ったノートはいっぱいになって、先生の一番の楽しみになっていた。

「それが、ある日…」

ある日、教室を走り回る系クラスメートが図書室にやって来た。
いつもは全く縁のない場所というか、勉強嫌いな人が多かったので寄り付きもしなかったのに、突然。
実はその次の週から一週間は期末テストの日だったので、それらしい雰囲気で勉強が捗ることにかけてゾロゾロとやって来たという事だった。

これはまずいと思った。もしここでノートが見つかれば、また晒される。しかもあの時とは比べ物にならないほどいっぱい書き足されているノートを。先生はその集団の姿を見た瞬間、草食動物のような本能のままにその時ばかりは自分の命より大切だと思ったノートを図書室の本棚に突っ込んで隠した。
そのまま無我夢中に集団から隠れつつドキドキしながら教室に戻ったのだった。



< 98 / 145 >

この作品をシェア

pagetop