課長の独占欲が強すぎです。

「まだ1匹目だ、落ち込むな」

 けれど和泉さんは励ましてくれて、おまけに席を立つと私の後ろにまわって手を取り「釣れたらここを回すんだ」と丁寧に教えてくれた。

 そこまでは良かった。彼の優しさにほっと心が和んだ所までは。

 次こそは釣るぞ、と意気込んでいる私を和泉さんは何故か一旦立ち上がらせ、自分が椅子に座ると……なんと抱え込むように膝の上に座らせた。

「ちょっと止めて下さい! 親子じゃあるまいし!」

 あわてて立ち上がろうとするも逞しい腕が腰にガッチリ回されていてそれを許さない。

「いいから釣れ。魚が引いたら手伝ってやる」

「ひとりで大丈夫です!」

 全力で抵抗を試みたものの筋肉質な腕はうんともすんとも動かず、騒げば却って注目を浴びてしまう事に気付いた私は口を噤み、いっそ親子のふりでもしようかと赤い顔を俯かせながらバカな事を考えていた。

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