課長の独占欲が強すぎです。
「人混みじゃないからもうはぐれたりしませんよ。大丈夫ですってば」
まだ私が迷子になるとでも思ってるのか、意外に心配性な和泉さんにそう言って笑い掛けると、すぐさま「いいから離すな」と否められた。
「混んでいようがいまいが、歩く時はそうしていろ」
その命令を聞いて、これが迷子対策ではなく彼の独占欲なのだと気付いた私は途端に顔が赤くなる。
和泉さんの気持ちを読むのは難しいと思っていたけど、逆に私が案外鈍感なのかもしれないと今更気付き、彼の逞しい腕にしがみつきながらモジモジと俯いて駐車場までの道を歩いた。
夕暮れの海風は髪をなびかせるほど強くて少し寒かったけど、くっついて歩いた大きな身体はとても温かかった。
——私、今日1日でけっこう和泉さんを好きになってしまったかもしれない。
数日前のあの時、『もしかしたら』程度だった小さな恋の芽は確実に大きくなってるような気がする。
大人になってから初めての恋になるかもしれない。そんな予感にキュンと胸を疼かせながら車に乗ったのだけれど。
「ちょ……っ!?」
席に座りドアを閉めるなり、運転席側の和泉さんに強引に抱き寄せられキスをされてしまった。