課長の独占欲が強すぎです。
「今のは溜息じゃない。お前が煽るような姿を見せるから欲情しないように深呼吸しただけだ」
朝のホテルのレストランで、耳を疑うような言葉が聞こえた気がした。
「ちょっ…! 和泉さん!! え? 欲……!? え!?」
目を白黒させている私を見て納得していないと思ったのか、妙に冷静な和泉さんはもういちど丁寧に繰り返す。
「昨日も今も、お前が無防備に俺を煽るから、こちらはむやみに勃たないように――」
「わあああ!! 言い換えなくていいです! もうこの話終わり!」
大慌てて彼の声を遮って、話題を強制終了させる。すぐ側を行き交っていた従業員に、今の話が聞こえてないのを祈るばかりだ。
まさかの信じられない理由に、もはや私は顔が真っ赤になるほど恥ずかしくて、朝食どころでは無くなってしまった。
なのに、発言した本人ときたら全く何も動じず、スクランブルエッグをふつーに食べてるのだからどうかしてる。
けれど……呆れられてた訳じゃないんだ、と思ったら胸がホッとした。最後に残っていたつかえが、これで全て流れた気分だ。
――私を目に映している和泉さんは、ちゃんと私を好きでいてくれている。
それが、とても嬉しかった。……やや性的な目ではあるけれど。
こうして、ふたりで初めて迎えた朝は、もはや疑う余地もないほどの和泉さんの愛を知る事ができた。