課長の独占欲が強すぎです。
先月挨拶に来た時、ただひとり顔を見られなかった人がいた。取引先との打合わせで席を外していた少女漫画部門営業課の課長、宍尾和泉(ししお いずみ)さんだ。
みんな口を揃えて『仕事熱心で部下想いのいい課長だよ』って言ってたから、てっきりエビスのような温和なタイプを想像してたのに……こんな大熊だなんて聞いてないよー!
「うちの部署ならさっさと中に入れ。そんな所にずっと突っ立ってたら邪魔だ」
驚いて口をパクパクさせていると、その大男……つまりは宍尾課長は私の背中を巨大な掌で押しやって、ペイっと放るように部屋の中へと押し込んだ。
「ほらもう〜! 宍尾さん、女の子の扱いが雑すぎ! 大丈夫? 橘さん」
「だ、大丈夫です」
よろけてしまった身体をすかさず東さんが抱えてくれたけど、私は驚きの表情を消せないままでいた。だって、だって、あんなおっかない人が憧れの少女漫画部門の営業課長だなんて! 悪い冗談にしか思えないよ!
少女漫画部門所属初日。さっきまでウキウキ踊っていた私の心は初めて会う課長を目の前に、しおしおと恐怖で萎れていくのでありました……。