課長の独占欲が強すぎです。

 和泉さんは何処だろうと会場を見渡していた私の目に、ふとある人物が目に止まる。

「あれ? あの女の人って小説家の有栖川栞(ありすがわ しおり)ですよね」

 大勢の人の中に居てもその容姿は目を引いた。色白でかぼそい身体に艶めく黒髪。伏目がちな目許は涼やかで、儚げな雰囲気を纏った美貌は作家と云うより女優かモデルみたいだった。

 彼女の顔は雑誌やテレビでよく見た事がある。若くして幾つもの文学賞を受賞している天才作家なのだから。

 そしてその作品のほとんどをひまわり出版社の文芸書から出していると云う、うちにとって頭の上がらない大作家様だ。私も文芸部門に勤めていたときはしょっちゅう彼女の名を目にしたっけ。

 けれど、今日は少女漫画雑誌『レジーナ』の記念パーティーだ。いくら売れっ子小説家とはいえこのパーティーには関係ないと思うんだけど。

 不思議そうな顔をしていると、東さんが人差し指を自分の口に当てながら小声で私に話しだした。

「橘さんはまだ知らなかったっけ。実は来年から有栖川栞が原作を担当する漫画が『レジーナ』で始まる予定なんだよ」

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