課長の独占欲が強すぎです。

「えっ、それは凄いですね」

 大きな声にならないよう気をつけながら、私は驚きを口にする。

 だって有栖川栞といえば恋愛における男女の心理描写に定評のある作家だ。そんな人が『レジーナ』で漫画原作をやるだなんて。絶対面白いものが出来るし、大きな話題を呼ぶだろう。

「そうか、だから文芸の編集部の人も来てたんですね」

「今日は少女漫画部門の面々に紹介するいい機会だからね。橘さんも行って挨拶してくれば?」

「あはは、私なんか行ったってただのミーハーですよ」

 そんな風に東さんたちと笑い合ってるうちに、有栖川栞は会場の奥へと行ってしまった。きっと新しい編集部の人達に挨拶に行ったんだろう。

 人の事は言えないけれど、あまりに細くて華奢な彼女の姿に、(忙しくて大変だな。あまり無理をすると倒れちゃいそうだ)なんて心の中で勝手な心配をした。



 明るい雰囲気の中パーティーは進み終盤に差し掛かる頃、私は片づけが始まる前にトイレに行っておこうと思って会場を抜け出した。

 さすが一流ホテルだけあって廊下もロビーも広い。迷わないよう案内板を見ながら1番近いトイレを目指す。

 すると、人気の無いクロークルームの入り口にとても見覚えのある人影を見つけた。

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