課長の独占欲が強すぎです。
見間違うはずも無い、あの大きな後姿。2メートル級のシルエットは和泉さんでしかありえない。
忙しかったのか会場では全然彼の姿を見ることが出来なかったので、私は嬉しくなって軽い足取りで和泉さんの元へと向かう。
けれど。大きな身体の影に誰かがいる事に気付いた私はぴたりと足を止めた。
誰かと会話中だったのかと思い、そのまま引き返そうとしたけれど——
「……あの時は本当にごめんなさい……」
耳に届いた声がとても弱々しく泣いている女性の声だと気付いた私は、そこから一歩も動けなくなってしまった。
女性の視界は和泉さんで塞がれているし、和泉さんも背を向けているので、ふたりとも私に気付かないまま会話は進んでいく。
「貴方が謝る事ではありません。全ては私が至らなかったのが原因ですから」
「私……宍尾さんに甘えていたの。自分の不甲斐なさをみんな貴方に押し付けて……酷い事をしたと思ってる。ずっと後悔して、謝りたいと思ってた」
「そんな事を仰らないで下さい。有栖川さんの訴えは正しかった、だから貴方はあれから素晴らしい作品を幾つも生み出せたんです。あのまま私が側に居ても貴方を壊してしまっただけでしょう」