課長の独占欲が強すぎです。

 読書家の和泉さんが著名作家である彼女の小説を全て持っていたって不思議は無い。ましてや昔は一緒に仕事した仲なんだし。

 今度の『レジーナ』の新連載に合わせて、彼女の作風を勉強していたのかもしれない。営業時に大切なアピールポイントになるのだから。

 別におかしい事じゃない。理由は幾らでも浮かぶ。

 ここに、デスクに、和泉さんがつい最近有栖川栞の小説を呼んだ形跡が残っている事は、なにもおかしい事じゃない。
 
 なのに——どうしてこんなに私は不安なんだろう……。
 
 
 私は手にしていた単行本をそのままデスクに戻すと、電気を消して部屋から出て行く。
 
 廊下に出ればリビングの明かりが点いていて、和泉さんがそこにいるとすぐに分かった。
 
 
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