課長の独占欲が強すぎです。

 元々は編集部勤務希望だった和泉さん。本が読書が好きな和泉さん。出来る事ならきっとまた作品を手掛ける部署に戻りたいはずだ。

 だったら、これは願っても無いチャンスのはず。あの大人気作家に指名されて編集部に戻って欲しいと請われたのだから。

 きっと和泉さんが首を縦にさえ振れば、直ぐにではなくともあっさり辞令は出るだろう。和泉さんがもともとは有能な編集者と云うのもあるけれど、うちから大ヒット作を連発している有栖川栞の発言力は大きい。

 むしろ編集長としては彼女のお願いを和泉さんに断らないで欲しいとさえ思ってるかもしれない。

 和泉さんにとっては編集部に戻るチャンス。そして、天才作家有栖川栞と新たな名作を生み出すと云う、この上ないやりがいのある仕事のチャンスなんだ。

「……はぁ……」

 私はキーボードを叩く手を止めると、小さく息を吐き出し手元のマイボトルのお茶を一口飲んだ。

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