課長の独占欲が強すぎです。
「会社宛に訴訟を起こすと連絡があった時には愕然としたな。何が悪かったのか理解出来なかった。けど、彼女の元に謝罪に行ったとき初めて自分のしてきた事を知った。『宍尾さんの存在が私を潰す。射抜くような目で私を見ないで。全身全霊で重圧を掛けないで。貴方が恐いんです』そう泣きながら訴えられて、初めて彼女が病的なほど痩せこけていた事に気がついた。……文学賞の祭壇で見た凛とした有栖川栞の面影もない事に、ようやくそこで気がついたんだ」
……嗚呼と、私は胸の中で嘆く。今まで知らずに和泉さんの深い傷に触れてきた罪悪感に。
今まで私は何度彼に『恐い』と言ってきただろう。本人は慣れていると平気な顔をしていたけれど、そんな深い傷が平気な訳はないのに。
『俺が恐いか』と聞いた時の和泉さんは何を思っていたんだろう。
作家と編集者とは云え、情熱を惜しみなく注いできた相手に『貴方が恐いんです』と拒絶された痛みは、今でも残っていたのに。
「和泉さん」
私はたまらなくなって、身を翻すとそのまま彼の首に腕を絡め抱きついた。
「和泉さん、和泉さん」
ギュウギュウとしがみつくように抱きしめる私の頭を、和泉さんは大きな手で優しく撫でる。
「お前が哀しんでどうする。気にするな、昔の事だ」
そんな彼の気遣う科白が、なおさら切ない。