課長の独占欲が強すぎです。
「俺は編集者には向いてない。つい夢中になりすぎるし自分の尺度で人の努力を計ってしまうからな。だからもう戻るつもりはないし彼女の担当につくつもりもない」
和泉さんはそう話を締めて終わらせようとしたけれど、私は勇気を振り絞って問い掛けを口にする。
これを聞かなければ、どんな返事をされても私の不安は燻ったままだ。
「い……和泉さんは、有栖川さんの事を好きだったんですか……?」
恐々と口にすれば、私の頭を撫でていた手の動きが止まる。緊張で彼の顔を見る事が出来ない。
けれど、ずっとずっと渦巻いていた不安。
東さんの話を聞いた後でさえ、この疑いは完全には消えなかった。
ふたりが恋人ではなかったとしても、そこには口に出せない強い繋がりがあった気がして。
今や有栖川さんの気持ちは明白だけれど、和泉さんにも同じものがあったように思えて仕方ない。
彼女を『貴方』と呼ぶ声。担当から離れても読み続けていた彼女の本。そして何より、そこまで深く傷付いたのは和泉さんが彼女に特別な感情を持っていたからだと。
拒絶される痛みより、愛するひとを壊しかけた事が和泉さんのトラウマになっている気がするから。