課長の独占欲が強すぎです。

 髭を生やした貫禄の在るその人はひまわり出版の文芸書レーベルの編集長で、隣には『レジーナ』の編集長もいる。そして、ふたりの影に隠れるように立っていたのは——

 ……紺色のフォーマルワンピースを着た有栖川栞だった。

 和泉さんは私の方を振り返ると「ちょっと行って来る」とだけ残し、編集長たちの元へと向う。

 私はその場を立ち去れば良かったのに、ひとり残された場所から立ち尽くすように和泉さんたちのやりとりを見つめてしまった。

 離れていたから何を話してるかは聞こえない。けれど、その内容は想像がつく。

 『レジーナ』の編集長が、文芸部の編集長が、和泉さんに向って頭を下げていた。

 間違いなく有栖川栞の担当の件だろうけど、その光景に周囲は目を瞠る。

 『レジーナ』の編集長はまだしも、文芸の編集長はキャリアが長く次期取締役候補のひとりと言われてる人だ。

 そんな人が和泉さんに向って頭を下げて頼んでいる。天才作家、有栖川栞の作品のために。

< 207 / 263 >

この作品をシェア

pagetop