課長の独占欲が強すぎです。

 頭を下げていた編集長たちの姿を思い出すと、和泉さんの選択が間違っていないのか心配になってくる。

 有栖川さんの頼みを受け入れない事で安心を得ているのは私だけのような気がして。

 もしかしたら私は……和泉さんは、ひまわり出版や文芸界、少女漫画界に多大な迷惑をかける選択をしているんじゃないかと、さっきの光景と併せて不安が過った。

 憂慮に引きつってしまった顔を鏡に映し、こんな顔じゃ会場に戻れないと自分に発破を掛ける。

 軽くメイクを直してから用を足そうと個室に入ると、誰かがトイレに入ってきた音がした。

 個室に入る気配の無い様子に、化粧直しにでも来たのかなと思いながら外へ出た私は、鏡の前に立つ後姿を見て思わず足を止める。

「……うっ……うぅ……」

 口に手をあて声を押し殺すようにして泣いているかぼそい後姿。華奢な肩を震わせてうなだれるネイビーブルーのワンピースの背中は……有栖川栞だった。

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