課長の独占欲が強すぎです。
うなだれているせいでこちらに気付いていないのか、有栖川さんは何度もしゃくりあげるように涙を零し続ける。
ペールブルーのショールから覗く腕は心配になるほど細くて、垂れた黒髪の隙間から見える顔は健康とは言いがたいほど白かった。
私が声を掛けても仕方ない、そう分かっているけれど静かに泣き続ける彼女の姿があまりにも痛々しすぎて、気がつくと私は彼女にハンカチを差し出していた。
「あの……大丈夫ですか?」
声を掛けられて初めてこちらの存在に気付いたのだろう、有栖川さんは一瞬ビクリと身体を震わせてから振り返る。
「……ごめんなさい、ひとりだと思ってたから……」
静かで消え入りそうな声で彼女はそう言い、泣いていた事を恥じるように顔を隠した。
けれど、私が「良かったら使ってください」ともう1度ハンカチを差し出すと、有栖川さんはわずかに口元を緩ませ「ありがとうございます」と受け取った。