課長の独占欲が強すぎです。

「宍尾課長のことは知ってるよ。あの人目立つ容姿してるもん、社内で1度見かけたら忘れられないよね」

「でしょ? あんな山みたいな人に叱られてごらんよ、恐くって震え上がっちゃうから」

「でも恐い人だって噂は聞かないなあ、仕事熱心だとは聞いた事あるけど。それに確かに大きいけど、スタイル良くて結構イケてるよね」

 杏子ちゃんは記憶を辿るように目線を動かしながら、クッションの上で膝を抱えてサワーを飲んだ。あんまり同情してもらえず、いじけた私は大口を開けて杏子ちゃんご自慢の五目玉子にパクつく。

「小夏〜、気持ちは分かるけど自棄食いはやめてよね。あんたすぐお腹壊すんだから。配属2日目に食べすぎで休みますなんてカッコ悪すぎるよ」

「もー分かってるよー!」

 気持ちの当たり所がなくなった私は、子供みたいにジタバタとみっともなく足をバタつかせるしかなかったのだった。

***

 憧れの少女漫画部門配属2日目。見上げた空は昨日と同じ、爽やかな青空に薄桃の花弁が晴れやかに舞っているのに私の心はちっとも踊っていなかった。

 今日は叱られないように気をつけよう。分からない事は必ず先に東さんに聞いて、間違っても宍尾さんに聞かないように気をつけなくっちゃ。

 そんな風にすっかり宍尾さんへの警戒心を強めてオフィスへ向かう私だったけど。

 
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