課長の独占欲が強すぎです。
「おはよう、橘さん。はいコレ」
フロアに入った私に、先に来ていた東さんがニッコリと挨拶をして手の平大の紙袋を手渡してきた。
「なんですか? これ」
素直に受け取って中身を見てみると、それは小瓶に入った色とりどりの金平糖の詰め合わせで、あまりの可愛らしさに思わず目元を緩めてしまう。手に持ってくるくると小瓶を回してみれば、星の形をした飴たちが揺れて様々な色面を見せてくれた。
「可愛い……どうしたんですか、これ? 東主任が買ってきたんですか?」
もしかしたら昨日落ち込んでいた私を励まそうと東さんが気遣ってくれたのかもしれない、そう思って彼の真心に感謝の気持ちいっぱいで尋ねた私に、東さんは何処か楽しそうに笑って首を横に振った。
「宍尾課長の差し入れ。昨日、取引先から帰ってから皆に『糖分補給だ』なんて配ってたんだけど、橘さんもう帰っちゃってたから」
驚くべき東さんの言葉に、私は目を瞠って手の中の小瓶をマジマジと眺めてしまった。だって、これを? こんな可愛い差し入れを、あの宍尾さんが?
その時、ふと昨日の帰り際の光景が私の頭を過った。叱られた事で嫌になって目も合わさず帰った私だったけど、宍尾さんはあの時何かを言おうとしていた気がする。
私の『お疲れ様でした』に『……ああ』とだけ答えたけど、何か言いかけて噤んだような間があったような気がする。
もしかしたらそれって……この差し入れを渡そうとしてたのかも知れない。