課長の独占欲が強すぎです。

 思い出したのは幼い頃に撫でたぬいぐるみだろうか。それとも学生の頃に触れられなかったアヒルや猫だろうか。

 とにもかくにも、俺の懐に飛び込んで来たそいつを『捕まえなければ』と云う衝動が湧き上がる。ころりとこちらの懐に転げてきたこいつは、まるであの歌のウサギだ。

 ——逃がしてたまるか。


 そのウサギはなんとも運のいい事にうちの部署に来た事務員だった。

「うちの部署ならさっさと中に入れ。そんな所にずっと突っ立ってたら邪魔だ」

 出入り口でボケッとしたままでは危ないので、ひとまず中に入れてやる。東が「扱いが雑すぎ」だとか喚いていたが、雑に扱ったつもりはない。

 俺は橘をフロアに押し込んだ後、総務へ向かう廊下を歩きながら自分の胸が逸るのを感じていた。


 ——橘小夏。あんな可愛い女は見たことがない。必ず俺のものにする。
 
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