課長の独占欲が強すぎです。

 どう頑張っても骨格的に半分以上座席を占めてしまう宍尾さん。長い脚は後部座席にはとても窮屈そうで、なるべく開脚していないと前の席のシートにめりこんでしまう。

 なので、宍尾さんが私のスペースにまで侵略してくるのは仕方のない事だと言えるけど……軽い私はカーブやブレーキの度に身体が揺れてしまって、あやうく隣の巨体にもたれかかりそうになるのをグッと力を入れて堪えなければならない。

 後部座席がそんな絶妙な緊張感を持ってるなど露知らず、東さんは呑気に「桜はいいねえ」なんて話しかけてくる。一方の宍尾さんは無言でじっと窓の外を眺めてるだけだ。

 いい加減、身体が揺れないように力を籠める事にも疲れてきた所で東さんが「あそこのお店だよ」と言ったので、私はふと気を緩めてしまった。その時、タクシーが路上駐車していた車を避けようとハンドルを切って、車内がグラリと大きく揺れる。

「きゃっ!」

 ああ、さっきまでの努力虚しく、私の身体は転がるように宍尾課長の元へ倒れこんでしまったのだった。

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