課長の独占欲が強すぎです。

***

「橘が少女漫画部門に配属された事を歓迎して、乾杯」

「かんぱーい!」

 宍尾さんの低いけれどよく通る声の音頭で始まった歓迎会。ちなみに課の代表から私へと云う事で掛けられた言葉は『分からない事は皆に聞いて無理をしないように』だった。優しいけれど……なんだか私、頼りないって思われてるのかな。

 何はともあれ、乾杯を済ませて注がれたビールをひとくち飲むと、その爽快感に疲れが癒される。

 けれど飲み過ぎないように気をつけなくっちゃ。あまりお酒にも強くない私。気心の知れた友達ならばいいけど、配属したての部署で先輩や上司に醜態を晒す訳にもいかない。

 食べすぎ飲みすぎに気をつけよう、なんて胃薬のCMみたいな事を心がけながら、どんどん運ばれてくる美味しい料理にほどほどに手を付けた。



「橘さん、もしかして卯の花が好きなの?」

 向かいの席に座った東さんが、私の手元を覗き込んで珍しそうな顔をしながら尋ねた。

「大好きです。卯の花とか白和えとか」

 嬉しい事に今日のお通しは大好物の卯の花。筍まで入ってて春らしい風味に思わず箸が進んでしまう。

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