課長の独占欲が強すぎです。
まさか私が言い返すとは思ってなかったのだろう。その場に居た全員が水を打ったように静まり返った。緊迫のあまり東さんがゴクリと唾を飲み込んだ音まで聞こえる。
宍尾課長は眼力の強い目でジッと私を見つめていたけど、やがてクッと口角を下げ不愉快そうな表情を浮かべた。
それを見た私の中には『やった! ハッキリ言い返せた』と云う達成感と『恐っ! 生意気に歯向かったりして怒らせちゃったかな』と云う恐怖におののく気持ちが揺れていて、知らず知らずに握りしめた手にはビッショリと汗を掻いていた。
重々しい沈黙のあと、宍尾さんはふっと目を伏せてジョッキのビールを一口飲むといつにも増して低い声で
「……悪かった」
とだけ呟いた。
***
私と宍尾さんのやりとりのせいで一瞬気まずくなった歓迎会も、人一倍空気を読む東さんの尽力のおかげですぐに和やかさを取り戻した。
私も今まであまり喋った事のなかった人と積極的に会話を交わし、この機会に親交を深めようと努力する。
けれど、酔っ払わないようにセーブして飲んでいたのに皆に勧められてしまい、断りきれなくてお猪口に一杯だけ飲んでしまった日本酒が良くなかった。
お酒は違う種類を合わせて飲んでしまうと、途端に酔いが回ってしまう事がある。今の私が正にそうだった。
さっきまでハッキリしていた頭が急にグニャグニャになり、足元までフラフラとおぼつく。しっかりしなきゃと考えてる自分がいるのに、自制できない自分もいて、理性は歓迎会終了時間の10分前ついに陥落した。
「本日は〜私、橘小夏のためにこのように盛大な歓迎会を開いて頂き〜ありがとごじゃいましたあ! 頑張りますので、明日からまたお願い申しあげつかまつりまする〜」
締めの挨拶をやらされた私は人生史上最悪な挨拶をぶちかまし、皆に「大丈夫かー」と「明日は休みだぞー」の心配とツッコミの声を頂いてその場をお開きとした。