課長の独占欲が強すぎです。

 もはや真っ当な思考能力も判断力もなくなっていた私は、当然二次会に行くのを止められて帰宅を促される。

「どうします? タクシー呼びますか?」

 歩行が困難と判断されたようで、東さんが気を使ってタクシーを呼んでくれようとアイフォンを手にするのを、私はお店の外壁にグンニャリと持たれかかって眺めていた。けれど、低い声がそれを制す。

「タクシープールまで100メートルも無い。俺がそこまで送ってくるから、お前らは先に二次会場に行ってろ。予約時間過ぎてるんだろ」

 酔っ払った私の頭はその発言が喜ばしくないものだと云う事を認識出来ず、あらら〜二次会わざわざ予約してあったのか〜申し訳ない事したな〜、なんて的外れな反省をして手近な人に「ごめんにゃしゃい」と勝手に謝っていた。

 その後、宍尾さんや東さんは何かを話し合っていたみたいだけど当然私はボンヤリと聞いておらず、夜風に乗って流れてくる桜の花弁を憧れでも見るような瞳で眺めて過ごす。

 やがて宍尾さんが私の元までツカツカとやってくると「行くぞ」とだけ声を掛けて、大きな手でグイッと腕を引っ張った。

「あたたたた! いたいいたい!」

「ほら! だからもっと丁寧に扱って下さいってば! ああもう、やっぱ俺が行きます!」

 私の叫びと東さんの諌める声を聞いて宍尾さんはパッと手を離すと「すまない」と呟いてから、振り返って「大丈夫だ、任せろ」と有無を言わさない声色で返す。

 それを受けて、こちらへ駆けて来ようとした東さんが渋々した表情をして足を止めたのが見えた。

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