課長の独占欲が強すぎです。

「今日はすまなかった。お前を傷付けるつもりじゃなく……少し、心配しただけだったんだ」

 予期せぬ謝罪に私の酔っ払った頭は理解するまで時間が掛かったけれど、ちゃんと聞かなくちゃと云う気持ちだけは不思議と働いて、大きな背中にしがみついたままジッと耳を済ませていた。

「俺はこんなナリだからな。自分と比べてどうしてもお前が心配になる。食べられないのは仕方ないが、そんな華奢で大丈夫なのかとか、下手に触れたら壊れてしまうんじゃないかとか」

 『そんな馬鹿な』、思わず言い返そうとしたけれど口を噤む。代わりに顔をそっと背中に持たれ掛けさせ、低く響く声を全身で聞き入った。

「……こんな言い方も失礼か。悪い。あまり女に言葉を伝えるのは得意じゃなくてな。……ただ、橘を見下したり憐れんだりした事は1度も無い。心配するのは、その、……お前を守りたい俺の勝手な欲求だ」

 いつものキッパリとした宍尾さんらしくない、途切れ途切れで消え入りそうな声だった。だから、彼の紡いだ言葉の最後は、夜風に乗って花弁と一緒に掻き消えてしまう。

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