課長の独占欲が強すぎです。
 
けれど和泉さんはアイスコーヒーのカップを置くとそこはかとなく不満そうに「充分多い」と呟いた。客観的に見れば決して多くはないけれど、彼的には多分ひとりでも不満なのだろう。聞かなきゃいいのにと思わないでもないが、聞いてしまうのが恋心なのだというのも理解出来る。

「そんなに告白されてどうして付き合わなかったんだ?」

さらなる質問に、私は当時を思い出して少し不服気味に答える。

「だって色々合わなかったんです。まずメールや電話で告白って嫌じゃないですか。好きだって言うのに顔を見る勇気がない人なんてお断りです。それに元カノと別れてすぐって言うのも、なんか軽くて嫌だし。あと女子供や動物に優しく出来ない人は論外です」

男らしい、誠実、優しい。それのどれかひとつが欠けてても嫌。

私としてはものすごく真っ当な意見のつもりだけど、当時は友達に『理想高過ぎ』の大合唱を浴びせられたものだった。未だにそんなことはないとは思うけれど、二十五歳まで処女だったことを考えると、違うとも言い切れないのがちょっと悔しい。

話を聞いていた和泉さんは少し驚いたように目をしばたたかせていたけれど、頬杖をつくとすごく楽しそうに含み笑いをしながらこちらを見つめてきた。

そして何故だか実に満足そうに呟いた。

「やっぱり俺の惚れた女だ。お前を好きになって良かった」

「……へっ?」

どうしてそんなことを言われたかはまったく分からないが、またしても私を赤面させる台詞だったのは確かだ。

赤くなった顔でポカンとしていると、和泉さんは残っていたポテトをムギュッと私の口に入れて、

「さて、昔話も充分したし、そろそろ行くか」

そう言ってさっさと立ち上がってしまった。
 
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