課長の独占欲が強すぎです。
「そんなにやる事が残っていたか?」
いぶかしげな表情でデスクに近付いてくる宍尾さんに怪しまれないように、私はパソコンの電源を落とすと「もう帰るところです」と愛想笑いをする。
勤怠は切ってあるけれど、私用でいつまでもフロアに残ってるのも憚られる。節電を心がけるようにと、このあいだ庶務から注意が回ってきたばかりだし。
仕方ない。近くのカフェにでも行って、社に戻ってきたら連絡してもらうように東さんにラインしておこう。そう思って帰り支度をしていると意外な言葉を掛けられた。
「帰るのなら駅まで送ってやる」
宍尾さんは親切で言ってくれたのだろうけど、さて、ちょっと困ってしまっう。帰るんだけど、まだ帰るつもりじゃ無いと言うか……。
「ありがとうございます。でも大丈夫ですので」
「遠慮をするな、夜道は危ないだろうが」
「いえ、そうじゃなく。あの、寄る所もありますし」
「買い物か?」
「いいえ、えっと……人と会う約束が」
「誰だ」
ええ!? なんでそんな事まで聞くの?
宍尾さんの思いもよらぬ過干渉にぐっと唇を引き結んでしまった。