課長の独占欲が強すぎです。

 自分でも上手く言えなくて、最後の方は蚊の鳴くような声になってしまう。意味もよく分からないし聞こえなかったかも知れない。その証拠に宍尾さんは『なんだって?』と言わんばかりのしかめっ面を浮かべてる。

 けれどそんな窮地を救ったのは、人一倍空気を読む東さんだった。

「それって、俺は振られちゃったって事かな」

 そう言って苦笑いを零した東さんを見て、宍尾さんもようやく私の言葉を理解する。

「東主任……ごめんなさい」

「ざーんねん。久々に真剣になれた子だったのにな」

 おどけたように言ったけど、告白のときと同じ『真剣』と云う言葉の重みが私の胸を痛く締め付けた。

「本当にごめんなさい」

 申し訳なさで俯いてしまうと、後ろから伸びてきた大きな手が私の顎を掴み、無理矢理顔を上げさせられる。

「何度も謝るな。振った男に情を掛けるもんじゃない。東、もういいだろう。気が済んだなら帰れ」

 さっき私が言った『強引すぎるのは苦手です』って、やっぱり聞こえてなかったんだろうか。無理矢理顔を上げさせるのも、東さんをさっさと追い払おうとしてるのも、強引以外の単語が見つからないんだけど。

 けれど、大きな手が押さえている顎は決して痛くはなく……宍尾さんが優しく気遣ってくれてる心が、少しだけ感じられた気がした。

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