課長の独占欲が強すぎです。
「お疲れ様でした。おじゃまさま。あ、橘さん。映画のチケットはあげるよ。ここ置いとくね。課長、橘さんに乱暴な事しないで下さいよ」
最後まで私に親切にしてくれながら、東さんは朗らかな挨拶を残して帰っていった。
宍尾さんも「気をつけて帰れ」といつもの課長の顔にようやく戻って、私はちょっとホッとする。とりあえず、職場が不穏な空気に包まれるような事はなさそうだ。
密かに胸を撫で下ろしていると、大きな手がポンと包むように私の頭の上に置かれた。
「これでもう用事は済んだんだろう、帰るぞ」
「あ、はい」
なんだか一緒に帰るのが当たり前みたいになってるけど、宍尾さんの中ではやっぱり私は『俺のもの』なんだろうか。
なんだかメチャクチャな成り行きで付き合う事になっちゃったけど、私、大丈夫なのかな。
一気に色んな事が起きたせいで不安もかなり拭いきれないけれど、一緒に廊下を歩く宍尾さんの歩幅が足の長さが全然違う私に合わせてくれている事に気付いて、私は少しだけ嬉しくなったのだった。