ホタルビ


お姉ちゃんは何も言わずに、私の隣に座った。


「・・・ホタル、少なくなったね。」


お姉ちゃんは宙に泳いでいる2、3匹のホタルを見つめながら言う。お姉ちゃんがここに来るのは、本当に久し振りで、小さい頃の思い出が蘇ってくる。


「・・・うん。昔はたくさん飛んでたのに、いつの間にか少なくなってた。やっぱり川が綺麗じゃなくなっちゃったからかな。」


ホタルの成虫は、水しか口にすることができない。水が綺麗でなければ、ホタルが生息することは不可能だ。工業廃水が絶えずこの川に流れるようになってからは、ホタルの数が激減していった。


「それでも、真希はこの場所好きなんだね。もう、ここには何も無いのに。」


「うん。何も無いけど、誰もいなくなっちゃったけど、それでもここに来ると落ち着くから。」


何も無いのもわかってる。誰もいないのもわかってる。だからこそ、忘れちゃいけないと思った。


だって、小さい頃に感じた、あの綺麗な光と純粋な感動をいつまでも覚えていたかったから。


「・・・あの、真希。バレエのことなんだけど・・・」


私とお姉ちゃんは同じバレエ教室に通っているから、私がどうしてここにいるのかも良く知っている。多分私を気遣って、ここまで来てくれたのだろう。


「おめでとう、お姉ちゃん。3年連続の主役だね。」


お姉ちゃんに余計な心配をかけるのは嫌だったし、主役から心配されるなんて、もっと嫌だった。だから、無理矢理な笑顔をお姉ちゃんに向けた。
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