ホタルビ
オデット姫が花畑で悪魔に白鳥に変えられてしまう、一番最初のシーンで、私はこの舞台に魅入ってしまっていた。
いや、舞台というよりはお姉ちゃんと言った方が正しいのかもしれない。
綺麗な衣装に身を包んでいるお姉ちゃんは勿論、綺麗だった。綺麗で目を奪われたけど、私が魅入っていたのはお姉ちゃんの雰囲気の美しさだった。
本当のお姫様のような凛とした雰囲気に、ピンと伸びた背筋。
お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃないみたいな不思議な感じがした。
軽やかなステップからの、ゆったりとしていて優雅な回転技。
凛とした雰囲気の中にも、優しさと暖かさを併せ持つお姫様なんだなと、一瞬でイメージできた。
目を見開いていた。お姉ちゃんをもっと見ていたいと、そう思っている自分がいた。
そして、オディールが王子を騙す場面。お姉ちゃんの雰囲気が一変している。
優雅で落ち着いた感じのオデットとは正反対の荒々しくて、暴力的な激しい演技だった。
軽やかではなく、力強いステップで。ゆったりと優雅ではなく、素早く、少し乱雑な回転を。
正反対の2人を見事に演じきっているお姉ちゃんに初めて尊敬の念を抱いた。それと、バレエというものは、こんなにも人の心を揺り動かす物だとも知った。
終わった時、私は立ち上がって、手が真っ赤になって痛くなるくらい音を立てて拍手をしていた。スタンディングオベーションというらしい。後で、お母さんが教えてくれた。
この人になりたい!という強い憧れを持ったことは今までなかった。だけど、今は憧れる人がいる。私は絶対にあの人みたいになってみせる!!
お姉ちゃんみたいに格好良くなりたいと、まるでヒーローに憧れる少年のような純粋な気持ちで、私はお姉ちゃんを見つめていた。
その時から、私はずっとずっとお姉ちゃんを追いかけ続けている。