私は何を信じればいいですか?
「ひゃっ、冷たっ」

湿布だからね。

彼はあっさりと言う。

何だ、あれだ。

クールってのは、彼みたいな人の事をさすんだろう。

「後は自分で貼れる?」

「は、はい。ありがとうございます。あの、名前……」

「……若宮希尋」

そう言って、ふわっと微笑った希尋が、凄くカッコ良かった。


「何だ、あのカッコ良さは……」

1人になった途端、私はそう呟く。

イケメンは蘭華で見慣れていたけど。

蘭華、か。

思い出すだけで、胸がズキンと痛む。

「気にしないように、してるんだけどな……」

私は無理やり口角を上げた。

笑え、笑え。

それが、私の心を守る唯一の防御手段。

ペリペリと湿布を剥がしては、貼っていく。

思ってたより、痣はずっと酷かった。

「強く、ならなきゃ」

負けないくらい、強く。

気合を込めて、両頬を叩こうとする。

「君、馬鹿?」

が、手首を掴まれた。

「頬、怪我してるの忘れてる?」

「あ……」

完璧に忘れてました……。

希尋が止めてくれなきゃどうなっていたことか。

「ああ、そうか。馬鹿なんだね」

この男は1人で納得してるし。

確かに馬鹿かもしれないけどさ、仮にも初対面でしょうが。

せめて最低限の礼儀てものがあるよね?

「で?馬鹿は1人で家に帰れるの?」

ブチッ

「あんたに、そこまで馬鹿にされる謂れはないから!家ぐらい1人で帰れます!」






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