片道切符。
3月27日
「じゃあ…」
遠くに響く踏み切りの警告音を聞いて、彼女は僕から一歩遠ざかる。
『行かないで』
なんて、僕が言えるわけもなく、離れていってほしくない気持ちをぐっと堪えて、僕は笑顔を作った。
ちゃんと笑えなかった。ひきつった、情けない笑顔だったと思う。
だって、僕を見つめる彼女の笑顔もまた、くもり、ゆがんでいたから。
視線を下に向けると、彼女の小さな手のひらに、ぎゅっと握りしめられた片道切符が目に入った。
「…うん。」
「いって、くるね。」
「……うん。いってらっしゃい。」
先ほどまで近くに感じた体温が、嘘みたいに遠すぎて。
引き留めようとする腕すら伸びなかった。
そんな僕に彼女はふっと、最後に綺麗な笑みを見せた。
彼女を乗せた電車は、あっという間に僕との距離を離していく。
僕たちの間に、次の約束はなかった。
これは僕たちの青春の終わりで、長い人生のほんの1章でしかないから。
僕たちは、それぞれの道を行く。