片道切符。
凩が、吹く
* * *
「さみぃ。」
ぼそりと小さな声でつぶやいて、そっと彼女の隣の席に腰かける。
市の図書館の自習室。
せっかくの冬休みだってのに、勉強、勉強、勉強…。
まあ、仕方ないことなんだけど。
だって彼女は来月にセンター試験を控えてるれっきとした受験生。
同じ高校3年生だとしても、
なんとか春からの就職先が決まり、残り少ない学生生活、
学生のうちにしかできないことを満喫してやろうと
短い冬休みをいいようにバイトに費やしてる俺と、これからが勝負の彼女。
なにもかも違いすぎる。
こんな俺が、隣にいていいのだろうかと思う。
イヤホンをしながら、集中して問題に取り組む彼女の姿を見て、
今日はもう帰ろうかと席を立つ。
勉強の邪魔しちゃ悪いし、俺なんかこの自習室など場違いだ。
「真宙(まひろ)。」
そっと名前を呼ばれて、振り返る。
「ごめん。リスニングやってた。」
イヤホンを外しながら、彼女はそう言って、俺にこっちへ戻ってこいと言わんばかりに
さっきまで俺が座っていたイスをそっとうしろに引く。