片道切符。
「愛実(つぐみ)」
「ん…?」
俺が小さく彼女の名前を呼ぶと、可愛く小首を傾げる。
「…あっためて。」
そう言って両手を差し出せば、彼女はふふっと小さく笑ってから、冷え切った俺の両手をそっと包み込む。
「氷みたい。手袋しないの?」
「動きづらくて、嫌いなんだよ。」
「そっか」
彼女は口元に俺の手を引き寄せて、はあっと息を吹きかけ、温めようとする。
その温い空気に、思わずびくりと小さく肩が跳ねた。
…なにしてんだよ。
「つぐ、」
咄嗟に愛称で彼女を呼ぶと、「うん?」とどうかしたとでも言いたげな表情…。
…確信犯だな、コイツ。
ここが公共の場で、しかも図書館の自習室だからって、俺が何もできないと思ってるな、絶対。
男なんてその気になったら、ここがどこだとしても我慢できねーんだよ。
俺は彼女に包まれていた手をほどき、彼女の後頭部に手を回して引き寄せた。
目を見開いたままの彼女に、そっと触れるだけのキスをする。
「…勉強、しろよ。」
まさか、俺がここでキスしてくるとは思わなかったんだろう。
少しの間があってから、「…言われなくてもしてる」という強気な返事が、小さな声で返ってきた。