片道切符。
「ううっ、寒いぃぃぃ。」
まだ夕方だというのに、外はすでに薄暗くなっている。
呪文のように寒い、寒いと唱えても暖かくなるわけじゃないのに、主張し続ける彼女。
そんな彼女の手を引きながら駐輪所に向かう。
「鍵。てかよくチャリで来たな。」
「たまには気分転換しなきゃ。気が狂いそう。」
「言えば俺が送ってやったのに。」
「嫌だよ。だって真宙、原付じゃん。二人乗りダメだよ。」
「じゃあ…」
進学校のヤツは、これだから困る。
俺らの学校のヤツだったら、喜んで後ろに飛び乗るけどな。
「これ、駅までどうすんの?」
原付の二人乗りは頑なに拒む彼女。
だったらお前が乗ってきたチャリンコ、これどうすんだよ。
これからチャリンコ乗って家まで帰る元気もないくせに。
俺だって愛実の代わりにチャリ乗って帰る元気ないし、駅に置いていくしかないだろ。
「歩いてく?」
いまから歩いたら、電車1本確実に逃すけどな。
少し押し黙ったあとで、返ってくる彼女の返事はわかってる。
「ニケツ、してく」
「じゃあ後ろ、乗って」