片道切符。


嫌だ、嫌だと言うわりには、楽しそうに俺の後ろに乗る彼女。

俺の腰に両腕を回して、苦しいくらいにへばりついてくる。


「…あったかい。」

猫のように頬を摺り寄せてくるんじゃないかと思ったら、どうやらやってるらしい。

背中に感じるくすぐったさに耐えられなくなって、信号待ちで後ろを振り返る。

「くっつきすぎだろ。」

「だって寒いし、いいじゃん。」

「なにがだよ。」

「青春って感じする。」

「それは、なんか…わかる。」

「でしょう? それに真宙にくっついてると、安心するの。」

「…なんだよ、それ。」

「あれ?照れた?」

「別に、照れてねーよ。」

楽しそうにあははと笑う彼女につられて、俺も笑う。

安心するって…、俺も、愛実がそばにいるだけで、よくわかんないけど…幸せな気持ちになるから。


「おい、走るよ。落ちんなよ?」

「はーい。…っふふ」

「なんだよ、ったく。」


とりわけ面白いことはなにもない。

だけど二人でいると、なんでもないことで笑顔になれた。

なんでもない二人の日常が、ひどく幸せだった。

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