片道切符。


旅立ちの日、それは麗らかな午後。

駅に現れた彼女の手には、不釣合いな大きな荷物。

車で送ってくれたらしい親との別れを遠巻きに見ていたけど、

案外すんなり別れると、俺を見つけ、歩み寄ってくる。


「ホームまで、見送るよ」

荷物を持とうとすると、「大丈夫」とやんわりと彼女は断る。

きっと、ここから先、俺が彼女の荷物を持ってあげることはできないから。

そう思うと、どうしようもない疎外感に襲われた。


いつも通学で乗っていた電車に乗るのも、これが最後かもしれない。

俺は先月車の免許を取ったし、春からの仕事も、車で通う。


「向こう側…」

「ん?」

小さく言葉を吐いた彼女に、耳を傾ける。


「向こう側のホーム、行かないの…?」

俺の家があるのは、これから彼女が乗ろうとしている電車とは逆の方向。

彼女の家よりも学校寄りに家がある俺は、いつも彼女より先に電車を降りていた。

けれどよく、心配だからと言って、彼女の最寄りまで乗って来てたな。


『つぐの家、遠い』なんて文句を言いながらも、

二人で電車の揺れに身を任せる時間が、好きだった。


そんな彼女が、もっと遠くに行ってしまう。

もっと先に、行ってしまう。

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