片道切符。
「…見送ってから、あっち行くよ」
線路を隔てた向こうからお別れなんて、できるかよ。
俺に早く電車乗って帰れとでも言うようなこと、
なんでそんなこと言うのかと思ったけれど、次の彼女の行動で、その理由がわかった。
大きな荷物を足元に置いた彼女は、俺の背中にしがみついた。
「愛実…?」
名前を呼ぶと、「少しの間でいいから…」と彼女は言う。
必死に後ろから腕をまわす彼女に、俺も手を添えようと思ったけど、…やめた。
離れがたくなるから、そんなこと言ったんだなってわかったから。
俺は彼女にされるがまま、両腕をだらりと垂らした。
いまこの腕で彼女を抱き締めたら、離れられなくなると思ったんだ。
お互い、なにも言わなかった。
俺たちの”次”について、どっちからも言及しなかった。
それが示すのは、”別れ”だろう。
俺たちはまだ18歳で、これからの人生は長い。
まして彼女には、これからたくさんの出会いが待ち構えている。
彼女のなかの俺の存在なんて、小さくなって、なくなっていくだろう。
だからここで”別れ”るのは、そのときのつらさを考えた、予防線でもある。
遠くで踏切の警告音が鳴る。
ぎゅっと少しだけ、彼女の腕に力が籠った。
…サヨナラ、だね。
俺は心のなかでそっと、『好きだよ』と彼女に告げた。