片道切符。
つまみの焼き鳥をぱくぱくと美味しそうに口に運ぶ佐倉さんに
「はやくお家に帰らなくていいんですか?」と尋ねた。
家族サービスのために、いつも仕事終わりは直帰の佐倉さん。
そんな佐倉さんが飲みに誘ってくるのは珍しかったりする。
「うん。早く帰るよ。8時までには家に着きたい。」
じゃなきゃ子供たちが寝ちゃうからね、と笑う顔は父親の顔だ。
てか8時までって…、あと1時間もないじゃないか。
それでも飲みに誘うってことは、きっと何か俺に話したいことがあるからだ。
それを察して黙る俺を見て、佐倉さんは小さく笑う。
「…オンナ、できた?」
やっぱりまた、この手の話のことか…。
「できてませんよ。」
俺は佐倉さんに、恋愛の話をしたことがない。
けれど面倒見が良くて、察しのいい佐倉さんのことだから
俺の心のなかを見透かしていそうで、少しこわい。
なんでこわいかって…
あの日から前に進めていない俺を知られるのが、こわい。
「はやく作れって~。前にいたのいつだよ?」
「…さあ。いつでしょう。」