片道切符。
宴会会場について、酒を飲み始めても、全然気分が上がらない。
視界の隅に映る陰に心が揺れて、気持ちよく酔えやしない。
…彼女とは、一度も言葉を交わしていない。
一度、出入り口でぶつかりそうになったことがあったけど、
何か言いたげに少し口を開けた彼女を他所に、
俺はそこを無言で切り抜けた。
「よーう!飲んでるかぁ~??」
ずんっと肩にのしかかる重さに、露骨に顔をしかめる。
「…佐倉さん、飲みすぎじゃないですか」
「まだまだよー、もっと飲もうぜ!」
そこで初めて気がついた。…今年は佐倉さんも宴会参加なんだ。
「今日は家族サービスはいいんですか?」
佐倉さんの空いたコップにビールを注ぎながら尋ねると、
わかりやすくシュンとする佐倉さんにぎょっとする。
「…実家だよぉ。」
「は?」
「嫁の実家だよ。俺は明日向かう。」
…そうか、もう盆休みに入るんだった。
じゃあ奥さんと子どもさんたちは、先に奥さんの実家に帰省してるってことか。
「お酒、ほどほどにしてくださいね。
今日はもしものとき迎えに来てくれる人がいないようですし。」
「そうなったときは成嶋ん家泊めて…」
「嫌ですよ。泊めませんからね」