片道切符。
誰もいないホームに降りると、
ものさびしいなか、ベンチに座る、ひとつの影。
まさか、とは思ったけど、もう、それに対するため息すら出なかった。
「…なにしてんだよ。」
俯く背中に声をかけると、びくっと肩を揺らして、顔を上げる。
「ま、ひろ…」
瞳を潤ませながら、昔と変わらない綺麗な声で俺の名前を呼ぶから、言葉に詰まった。
そんな目で、そんな声で、俺を見つめんじゃねーよ…。
まるで、あの頃となにも変わっていないとでもいうように。
たしかに彼女の見た目は昔となんら変わりない。
少し大人っぽくなったとは思うけど、彼女の髪は美しい艶のある黒髪に戻ってるし、
成人式だったあの日よりも、少し幼くさえ見える。
でも、心はどうだ。
あの頃のようにはもう、戻れない。
あれからもう3年経ったんだ。
お互い、知らないうちに大人になった。
「タクシー乗って帰ったんじゃなかったのかよ」
「こんなの、使えないよ…」
彼女がそっと、バッグから一万円を取り出して、俺に返してきた。
俺はそれを無言で受け取ってから、「…送るよ」と言った。