片道切符。
「え……」
「家までは送らない。駅まで、…最寄り駅まで送る。」
ベンチに隣同士で座ると、昔のことが思い出されて、なんとも言えない気持ちになる。
初めて会ったあの時は、不思議なくらいにぽんぽんと言葉が出てきて
すごく、楽しかった覚えがある。
お互いに口を閉ざしたまま、空を見つめる。
遠くで、花火の上がる音がする。
「…見えんじゃねーの?」
「……ん?」
「花火。」
「…うん。」
返事はしたものの、動きを見せない彼女を、伺うように横目で見やる。
彼女は地面を見つめたまま、その瞳を暗く曇らせている。
…やっぱ送るだなんて、言わなきゃよかったか。
俺が立ち上がれば、彼女はゆっくりと俺を見上げる。
「タクシー乗って帰れよ。」
「……え」
「やっぱ、送れない。」
俺がそう言葉を放った途端に、彼女の瞳が揺らいだ。
嫌だとでも言うように、俺の腕を咄嗟に掴んできたのは、どういう心境でのことだ?
「……や…だよ」
俺の腕を掴む彼女の手に力が籠る。
「は…、何?」
「…いや、だよ。…帰り、たくない。」
キッと俺を見上げるその瞳、その奥に潜む本心がわからない。