片道切符。
愛実の問いかけに、俺は言葉を詰まらせる。
俺の、これからの将来…
「…普通の、生活。」
「さっきと変わらないじゃない。それは夢がないよ。」
俺の腕の中で、ふふふっと無邪気に笑う彼女。
ギリっと、俺の心のどこかが軋んだ。
幸せそうに笑う彼女を見て、素直に喜べない自分がいた。
夢を叶えた彼女と、夢を捨てきれない自分。
背中を押して、頑張れと見送ったのは、誰だったのか…。
そのあとで後悔ばかりが押し寄せるなんて、ちっとも思ってなかった。
それは今でも、変わらないのだろうか…。
…今度こそ、もう一度、しっかりと彼女の背中を見送りたい。
『頑張って来いよ』という心からのエールを送るんだ。
俺はそっと、彼女の身体を離した。
少し驚いたような顔をした彼女の顔が目に入る。
「寝よう。俺、明日朝早いんだ。」
「仕事もうお盆休みよね…?」
「…用事、あるんだ。人に会う。」
「……そっか。」
「……うん。」
微妙な沈黙の中、狭いベッドの上で、隣に寝転んで瞳を閉じる。
さっきまで溶けるように感じていた体温が、まだ隣にあるのに、とても遠い。
心が、離れた。…突き放したのは、俺だ。