片道切符。




鼻腔をくすぐる香りに、重いまぶたを少しだけ持ち上げる。

朝の淡い光のなかで、幻を見ているようだった。


枕元に置いてあったスマホで時間を確認すれば、まだ朝の5時をまわったところ。

眠りについてから、まだ数時間しか経っていない。

気だるい眠気に耐えきれず、俺は温かい空気のなかで、再び瞳を閉じた。


次に目を開けたときには、無造作に点けられたテレビが朝7時台のニュースを放映していた。

はっと飛び起きて、彼女を探すように見渡せど、…いない。


むくりと起き上がると、ローテーブルの上に乗った見慣れぬものに目が留まる。


”おはよう。朝ごはん、よかったら食べてね。”


冷蔵庫の中にあった数少ない食材で作ったのであろう、朝食。

そんなメッセージが見慣れぬ小さなメモカードとともに添えられている。


俺は冷めた味噌汁を温めることなく啜った。

夢を、見ていた。

いつか幸せな家庭を持って、朝起きれば、そこには彼女の作ってくれた朝食があって…。


部屋の外では、こんな早い時間から、ジージーと蝉が鳴いている。


どうしてだろう。

俺が望んでいた未来は、こんなにも冷たい。

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