片道切符。


へらっとした顔を急に引き締めて、「でもな」と佐倉さんは続ける。

「少しは素直になればいいと思うんだ」

素直、だ…?

急に父親の顔を持ちだしてきて、佐倉さんは俺に説教でもたれようってのか…。

俺が怪訝そうな顔をしたのに気づき、佐倉さんの表情がより厳しくなる。


「我慢なんかして、かっこつけてんじゃねえよ。」

「別にかっこつけてませんよ…」

「我儘だとでも思ってるのか?少しはあがけよ。

欲しいもの、みすみす逃すなよ。必死になって守りきれよ…!」

「佐倉さん…?」


「成嶋、お前は何に怯えてるだ?」


俺が、何かに怯えてる…?


「何にも、怯えてなんかないですよ。」

「じゃあなんで、そんなに恋愛に消極的なんだよ」

「いいなって思える子に、なかなか出会えないだけです」

「嘘つくな。何年も前から、お前の心を占領してるのはたったひとり、だろうが。」


そう言われて、反論できなかった。

ここで反論しても、動揺がばれてしまって、俺は自分の気持ちを突き通せなくなる。


「…でも、つぐは……俺は、アイツのことを追いかけられないんです」

追いかけちゃいけない。俺は送り出したのだから。

彼女の夢を、俺のエゴで台無しになんかしたくないんだ。


たったひとりのちっぱけな男のために、

彼女の大きな夢を、諦めてほしくなんかないんだ。

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