片道切符。
「なんでお前はそんなに情けないんだよ。もっと貪欲に、自分の気持ちに正直になれよ。お前の気持ちを押し殺すなよ。
少なくとも愛実ちゃんは、お前とどうにかなりたいと思ったから、学生最後の貴重な夏休みを、こんなバイトに費やしてんだろうがよ」
愛実が、俺とどうにかなりたいと思っている…?
顔をあげれば、真剣な瞳を鋭く俺に向ける佐倉さんと視線がぶつかった。
「少しは、自分の気持ち、解放しろよ。
いつも、涼しい顔していやがって…大人ぶってんじゃねぇよ。おもちゃが欲しくて泣きわめくガキみたいに、本気で欲しがってみろよ」
自分の気持ちを…解放する……?
そのとき初めて、俺は自分で自分にリミッターを取り付けてしまっていたんだなって、気づいた。
俺の元を離れて行く彼女に忘れられていくのがつらくて、予防線だなんて言って曖昧にした、俺たちの関係。
予防線だなんて、ただの綺麗事で、俺は…彼女のことが好きなままなのに、彼女のなかから自分が消えてしまうことに恐れて、自分の気持ちにまで蓋をしたんだ。
もう、過去のことだと思っていた。
彼女のことを好きだった、と。
あの夜、彼女を抱いたのだって酔った勢いで、少しだけ、昔が懐かしくなっただけだって。
けれど、そうじゃない。
俺は……自分の気持ちを箱のなかにしまっただけで、ずっと、ずっと、…愛実のことが好きで、好きで、どうしようもなく、愛おしい。
俺は、今も変わらず、愛実のことを、滑稽なくらいに、想いつづけている。