片道切符。

「佐倉さん…」

「あ?」

「バイク借ります…!」

「は、ちょっ、お前どこいく…」

「事務所、行ってきます!」

「え、あ、おう!いってこい!ここはおごってやるから!」

勢いよく立ちあがった俺に、佐倉さんは混乱していたようだが、瞬時に俺の考えていることを理解したようだ。

「三木さんには俺が用事頼んだって言っておくからよ」

「ほんと、ありがとうございます…!」

佐倉さんからバイクのキーを受け取ると、俺は颯爽と事務所に向かってバイクを走らせた。

お昼休みは、あと20分もない。

休み中に行って帰ってくることはほぼ不可能だろう。

事務所に車を置いている俺は、終業時間になって現場を引き上げれば、どのみち事務所に帰るのに…

どうしても、今、伝えなきゃいけない気がしたから。

自分の気持ちのリミッターを解き放った今、…溢れる想いは俺には制御することなんてできないから。

だから、愛実……お前が止めてくれよ。


昼休み終わりの事務所のドアをガラッと乱暴に開ければ、受付で仕事を再開する準備をしていた事務のおばちゃんが大きく目を見開いた。

「成嶋くん?血相変えて、一体どうしたの…」

普段は感情をあまり表に出さないからか、俺を見たおばちゃんは不安げな表情を見せる。

「愛実ッ…いますか…!」

「ツグミ?」

必死に問う俺に対して、おばちゃんは頭に疑問符を浮かべる。

下の名前で呼んでも、ぴんとこないのは仕方あるまい。

「野崎(のざき)です、野崎愛実…!」


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