片道切符。
「成嶋さん…?」
俺が声を張り上げて彼女の名前を言ったとき、給湯室からひょこりと顔をのぞかせて、愛実は俺の上の名前をさん付けで呼んだ。
「どうされたんですか?」
言葉遣いまで丁寧で、あくまで他人行儀な愛実に、俺はふつと湧く感情を抑えて、必死に自らも冷静になるようにつとめた。
「少し、話がある」
「でももうお昼休み終わりますし、終業後で…」
「今、話したいんだ…!」
愛実の眉根が寄り、困り顔になるのがわかった。
突然、昼休み終わりギリギリにやってきて、話があるだなんて、とんでもなく迷惑だってことは重々承知している。
俺だって、仕事に戻らなきゃならないって、頭ではわかっているんだ、けど…!
あまりの俺の熱に圧倒されてか、おばちゃんが気をきかせて「少し裏でお話してきなさいよ」と俺たちの背中を押してくれた。
「じゃあ、少しだけ…すぐに戻りますから」
そうおばちゃんに謝ってから、「外でいいですか」と俺の前を歩き出す愛実。
そんな彼女の後ろをついて、事務所から機材置き場までの道を歩く。
現場組は必要な機材を持ち出しているし、この時間、誰もいないこの空間は変に物静かだ。
「愛実」
事務所から少し離れたところで、彼女の名を呼んで、先を歩く彼女の足を止めさせる。
「話があるんだ」
歩みは止めてくれたものの、愛実がこちらを振り向いてくれる気配はない。
怒っているのか、呆れているのか、…話しかけてほしくないとでも思っているのか。
愛実の真意はわからないけれど、俺は、俺の伝えたいことを伝えさせてほしかったから…。
「そのままでいいから、聞いてくれ」
愛実の背中に、言葉を投げかけた。