片道切符。


ぶちまけた想いを訂正して、その場を立ち去ろうと踵を返した俺の背中に、怒号が飛ぶ。

「バカ!大っ嫌い…!!!」

彼女の声から、泣いているんだなってわかって、でも振り返ることはできなかった。

涙を流すくらいに、俺のことが嫌なのかって思ったから。

その涙を、俺が拭うことは許されないだろう。


大嫌いと言われた、それも、そうだよな…。

なんだか無性に自分があほらしく思えてきて、ハッと自然に乾いた笑いが漏れた。

もう、愛実の前に俺が現れることは、ないだろうな。

嫌いだ、と言われた。

大嫌いだ、と。

自分でも思いもしなかった、こんなにも気持ちをえぐられるなんて。

愛実の声に思わず止まってしまった足を再び、進めた。

「待って…!行かないでよ!」

歩き出した俺の背中が、くんっと引かれた。

想定外の力に振り返れば、泣き顔の愛実が、俺の汚れたシャツの背中を引っ張りながら、キッと強い瞳を携えて、俺を見上げていた。

「やだ……突き放さないで…」

そう懇願する愛実の瞳からは、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。

「自分の言いたいことだけ言って、どこかに行こうとしないでよ…私を、置いて行かないでよ…」

子どものように、こんなに大泣きする愛実を見るのは、愛実と出会ってから今までで、初めてだった。

あのとき、別れたときにだって、愛実は自分の気持ちを抑えながら穏やかな涙を流していた。

こんなにも、感情のままに激しく涙を流して取り乱す愛実を見るのは、初めてで…。

戸惑いながらも、彼女の涙を拭おうと自然と動いた右手は、…思いなおして空気をつかむ。

そんな俺を見た彼女の瞳からは、また涙がこぼれる。

「…涙くらい、拭いてよ」

苦しそうにつぶやいた彼女は、俺の胸倉をぐっとつかんで、そこに自分の頭を寄せた。


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