片道切符。
「立てる?ほんとに大丈夫??」
「あの、ほんと大丈夫…」
ここで彼女に手を差し伸べたのは、咄嗟の行動だった。
あとで考えれば、自分をふっとばしてそしてわけわかんなくテンパってる男が
手を差し伸べてきたらきっと、少なからず怖いし、オカシイと思うだろう。
だけど彼女は、少しはにかむようにして、俺の手をとった。
「大丈夫。ありがとう。」
立ち上がった彼女は、ふっと優しい笑顔を俺に向けた。
固まる俺を見て、少し視線をそらしてから、彼女はつぶやくように言った。
「電車、行っちゃったね…」
「……うん」
電車、行っちゃった、…うん。うん…?!
ちがう、ちがうだろ!『うん』じゃねーだろ、俺!!!
「あっ、ごめん。ほんとごめん!急いでた?さっきの乗らなくて大丈夫?!?!」
テンパる俺を見て、彼女はあははと声をあげて笑った。
「大丈夫。大丈夫ですから。おうちに帰るだけだし。でも…」
「でも…???」
彼女の手にぐっと力が入ったのを感じて、俺はそこで手を繋いだままだったことを覚る。
「あと30分。お話相手になってくれませんか?」
びゅんっと心に風が吹いたような気がした。
そして、俺の心から何かを奪っていった。
生まれてはじめてのことだった。
一目惚れをしたのは。